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6月「成長」

文・澄水 

 井戸以外に何も無い殺風景な荒野の中央。そこに一人佇む白髪の少年、イズトリーヴァムはグレーや白の塊を井戸に押し込んでいた。
 その勢いは徐々に増していき、井戸の穴よりも遥かに大きな塊ができていった。しかし、井戸はそれを詰まることなく、生み出されると同時に吸い込んでいく。
 そして、それらは地上に降り注ぐこととなる。
「俺の力は戻りつつある。クレアーレ、無駄なことはやめるんだな」
 ツクンナーやブッタオースが一通り吸い込まれると、井戸の中を不敵な笑みを浮かべて覗き込んだ。井戸の水に映し出されたのは、オリキュア達と戦うツクンナーやブッタオースの姿だった。それらは地上のオリキュア達を苦しめるものの、勝利を収めることはなく、結局は送りこんだ者達は敗北していた。
 その惨状を見てもイズトリーヴァムの表情が崩れることはなかった。
「俺も順調に力が戻っている。そうすれば俺も地上に降りられる。オリキュア達もそうなれば終わりだ」
 その手に持ったハンマーは自身の身長の半分ほどはあった。先端は石のブロックのようになっていた。
 そのハンマーを振り下ろすと、枯れ果てた赤茶色の地面がヒビ割れ、めくれ上がり、周囲を覆い隠す程の激しい土ぼこりが撒き上がった。
 しばらくして、土ぼこりが晴れたイズトリーヴァムの周囲にはクレーターができていた。

 

 草原の井戸を覗き込む少女の姿をした女神、クレアーレの顔は憂いていた。地上でブッタオース達に苦戦するオリキュア達の姿とイズトリーヴァムの姿が交互に映し出されていた。
「ツクンナーやブッタオースには勝てているけど……」
 水に映し出されるイズトリーヴァムの表情はどこか嬉しそうであった。彼がハンマーを振り下ろすと地面がめくれ上がった。
 次に映し出されたのは空から街を見下ろした様子だった。その中には、チュテリィストアも映されていた。
 夜の地上は都市部が明るく輝いていた。チュテリィストアのある建物から、一粒の虹色の光が上がってきた。それは他の所からも上がってきていた。それは地上から空に向けて降る雪のようだった。
 井戸は突如として、他の所の様子を映すのをやめた。何も写らない、ただ水があるだけだった。
「来たわ……」
 井戸から吹き上げる風がクレアーレの黒い髪を揺らす。
 それから数秒遅れて井戸から、無数の虹色の光の粒が飛び出してきた。それらはクレアーレに向かっていった。
 それらは体にぶつかって、吸い込まれていった。
 クレアーレの体が虹色の輝きを放った。光の少女のシルエットは、その等身を上げていった。手足が伸び、急激な成長を遂げていく。その身長は180センチ程、七頭身と八頭身の間程になっていた。
 光が止んだ時、そこには大人の顔となったクレアーレの姿があった。

 

「もう少しよ……オリキュアの皆さん、キラ……」
 

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