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​10月「橙とベルト」

文・澄水 

 石のベンチと井戸だけがあるだけの殺風景な荒野の真ん中で、ボロボロの装束の少年は地面を蹴った。破れていた半ズボンは薄汚い程度になっていた。その手には工具のハンマーが握られていた。

 彼を取り囲むように真っ白のスライムは分裂しては井戸に飛び込んでいっていた。

「クソッ、邪魔をしやがって!」

 井戸には地上で創作物を消して回る白いツクンナーの様子が映し出されていた。それらは、ことごとくオリキュア達によって退治されていっていた。

「クレアーレめ……余計なものを作りやがったな……。オリキュアなど不要だ」

 彼はブクブクと増える練り消し状の塊から一握り引きちぎった。それを手でこねていくと、灰色に変色しながら膨らんでいった。

 灰色のそれは、泡のように膨らんでいった。灰色の塊は野獣が唸るかのような低い声を上げた。

「ブッタオース!」

 少年がハンマーで叩くと、灰色のそれらは分裂していった。大きな拳をもった人型や、爪と牙を持った四本足の怪物、猛禽類のような翼をもつものなど様々な姿になった。

 ハンマーが井戸に向けられると、それらは一斉に井戸へと吸い込まれていった。

「ブッタオースよ、オリキュアを倒せ」

 

 草原ではクレアーレは井戸を覗き込んでいた。その頬に冷や汗が伝った。草原の井戸には、灰色のブッタオースが投入されて行く様子が映し出されていた。

「思ったよりイズトリーヴァムの復活が早いわ……。それにオリキュアを直接狙うなんて……」

 しばらく覗き込んでいると井戸の映像が消え、ただの水面となった。少しして、虹色の輝きの粒が無数に飛び出してきた。虹色の光はクレアーレの腹部に収束していった。

 腹部にはベルトが現れた。バックルにあたる所には真っ白のリボンがあしらわれていた。ワンピースの上半身は橙色となっていた。

「まだ力は戻っていないけど……。せめてオリキュア達がもっと力を合わせられるようにしないと……」

 クレアーレが手を上に掲げると、大玉サイズの虹色に光るオリオールの塊が現れた。井戸に向けて投げる様な動作をすると、弾けて米粒ほどの結晶となり、井戸に吸い込まれた。

「キラ、聞こえますか? オリキュアに新しい敵が迫っています。オリキュア同士で力を合わせるのです。そのためにあなたに新しい力を授けます」

 

 11月1日の深夜、地上では灰色の雲が空を覆ったにも関わらず、流星群が観測されたという。

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