
9月「赤と靴」
文・澄水
空に浮かぶ館、虹色の王宮。その中に広がる草原には井戸と椅子とテーブルが置かれていた。一人の少女が椅子にもたれかかるようにして眠っていた。真っ白のワンピースに、黒いティアラとブローチをしていた。
彼女の名は、クレアーレ。
彼女はワークデリートによる創作物の破壊を阻止すべく、キラを地上に送りだした。その際に力を使い果たしていた。
クレアーレが眠っていると、井戸の中から虹色の光が溢れてきた。その光は彼女がキラを送り出す際に生み出した光と同じ、オリオールの輝きだった。溢れた光の粒達はシャボン玉のように少し漂った後、クレアーレの足元へと収束していった。
クレアーレが目を開いて足元に目をやると、靴を形作っていった。続けてワンピースの襟から袖に掛けて赤くなっていた。
「創作の力が集まってきている……」
ゆっくりと立ち上がり、井戸の中を覗き込んだ。そこには、創作に励む人達の姿が映されていた。笑みを浮かべながらその様子を眺めた。
すると、唐突に井戸の映像が井戸の中に写されたのは広い荒野だった。
そのうす暗い荒野の真ん中にも井戸があった。その脇には石のベンチがあるだけだった。その殺風景な空間に少年が一人佇んでいた。
目元まで掛る程の真っ白の髪の隙間から、鋭い目つきが覗き見えた。ボロボロの白いTシャツと所々破れた半ズボン、靴は履いていなかった。その手にはピコピコハンマーが握られていた。
「まだ動ける程ではないか……」
そう呟くと、木の実程の大きさの白い練り消しのようなものを手でこね始めた。それは捏ねていくごとに体積を増し、最後には少年の体程の大きさになった。
「ツクンナー」
声を上げたスライム状のそれは自ら動き出し、井戸に吸い込まれる様に入っていった。
「破壊の後に再生はいらない」
井戸から顔を上げたクレアーレは、椅子に腰を落とした。目を閉じ、不安げな溜息と共に呟いた。
「イズトリーヴァムも力を戻しつつあるわ……。早く私も力を戻さないと……」
立ち上がり、再び井戸を覗き込んだ。地上にいる様々な姿をしたキラがスライドショーのように順番に映し出されていった。
「キラ、聞こえますか? 創作を集めるのです……」
